指が「使われる」
ピアノを弾くときには指を動かす、指を使うと思っていないだろうか。
たしかに指が動いているのだが、指は受動的に動かされる、使われる立場にある。
そして、指は打鍵した後も「動かされ」続ける。
指の「使い手」がいないとどうなるか?
たいてい、指ははしごを外されたように落ちてしまう。
そのスピードは腕や手首の落下スピードに一致する。
この落ちるスピードだけで変化を表現しているので、タッチが一本調子になる。
響きはどうだろうか?
はしごをなくして、支えが取れた指は行き場をなくし、響きも落ちていく。
水面に石を投げつけたような音になり、響きが発散しすぎてしまう。
指の使い手は、前腕から手のひらにかけての筋群にある。
そして指を落とすことだけでなく鍵盤上で微妙に保持したり、
うまい具合に離鍵させたりすることも彼らの仕事だ。
指には意思はない。指でどうこうしようとせず、指に意思を伝えていくのだ。
音が消える瞬間まで響きを発散させずに、芯を残して消えていく音に、私は魅了されるし、
そんな音を出してみたいと思う。