大きく見せなくていい
舞台映えする人というのはいるものだ。ピアノに向かった瞬間、何だか身体が大きく見えるような人。
自分の体格や見た目が、とにかく線が細いのはわかっているが、それが舞台上での存在感のなさに繋がっていないかな、と気にして、舞台にいるときはつとめて堂々と見せようとしてきた。
小学生のころ、ドビュッシーのグラドゥス・アド・パルナッスム博士を舞台で弾いた。その時の先生の感想はこうだった。「音が小さくて何弾いてるかわからなかった。」自分では、思いっきり演奏したつもりだった。
そこから、自分の音量、スケール感がちゃんと出ているか、気にし始めた。
でも客観的に見てみればわかるが、虚勢を張っている演奏って、見てて痛々しい。
「私こんなに頑張ったんです、こんなに歌ってるんです、全身全霊を込めて音を出してます!」というような演奏。
身体だけじゃなく、肝っ玉もちっちゃいならちっちゃいでいい。大きく見せなくていい。等身大でいい。
矮小な自分も受け止めてくれるくらい、ピアノは寛大で度量がある楽器なのだから。
ただ、委縮するのはダメだ。お客様は、共感性羞恥を味わうためにホールに足を運んでくださっているのではない。
「委縮している人の音なんて聴きたくない。」この言葉を胸に刻んでおこう。