ピアノを最高の状態で弾くためのチェックリスト

「ピアノの演奏をする上で、身体的・テクニック的に行き詰まったら、大切なことはすべて音楽が教えてくれる。音楽を正しくイメージすれば、必ず弾けるようになる」というような説をよく耳にする。「音を聴けていないから弾けないのだ」などなど、精神論を何年間も聞かされて苦しんできた自分は、このようなことは、どうしても口にすることはできない。

野球のコーチが「球が160km/hでミットに収まるのを想像してごらん。かならずストライクが入るようになる」と言っているのとさほど変わらないと思う。

私は、人間は無自覚であり、常に認知のゆがみがあり、ピアノに適した身体操作は生まれもってできるわけがない、という前提に立ちたい。ピアノならなおのこと、ヨーロッパ人がヨーロッパ人の身体に合わせて作った楽器である。常に身体を改造、意識を改造、強く矯正していかなければ、ヨーロッパ人が意図したような楽器の扱い方では弾けるようにはならないと思う。

「音楽を正しく理解しイメージすれば弾ける」「弾き方は人それぞれなのでよい音楽ができていれば何でもいい」こういった言葉は、しばしば無知をごまかすために発されているのではないかとすら思うことがある。

人間はコンフォートゾーンから出たがらない生き物なので、今心地よく弾けていると「これがあるべき姿だ」と錯覚してしまう。この弾き方でいいのだ、このフォームが正しいのだと一度思い込むと、身体と意識全体がそれらを正当化するように働き、ときには都合の悪い感覚には無自覚であるように働く。

身体のいろいろな部分が相互に協同しあって、うまくコーディネートされたときにだけ、本当のリラックスと美しい響きが得られると肝に銘じ、意識を多方面に向けていろいろ試していると、奇跡的な瞬間が訪れる。

以下、備忘録的にだが、「最高の状態で弾くためのチェックリスト」を作ってみた。自分用の記述なので、表現が独特で意味が伝わらなさそうな内容も一部あるが、お許しください。

これは一例なので、自分だけのチェックリストを作ってみよう。

  • 坐骨は立てているか?その上に背骨が正しく積みあがっているか?
  • 頭は正しい位置にあるか?首が前に出たりあごが下がっていないか?
  • 背骨が司令塔となり、肩甲骨を自由に動かす準備ができているか?(背中は完全なリラックスより、少しだけ肩甲骨の中心にハリを持たせるとよい。)
  • 椅子に腰かけて体重が乗る位置は、太ももの付け根あたりにしてクッションをもたせる。尻骨のほうに体重が乗ると坐骨が一緒におりてしまいやすい。
  • 椅子の前1/3程だけを使って座っているか?脚にエネルギーを逃がす準備は出来ているか?いつでもサッと立てる状態にあるか?
  • ペダルを足の指の力で踏んでいないか?ペダルを上下の動きで踏んでいないか?ペダルを回転運動で踏めるような準備ができているか?
  • 骨盤が固定せず自由に動ける状態になっているか?
  • 椅子の高さは適切か?腕をリラックスして下ろしたときに自然に鍵盤に体重が乗るような高さ。通常の奏法に比べると高めに設定することが多い(低いと腕は下りやすいが、肩でホールドしてしまう。背骨主導でなくなる。そのため高めが良い)
  • 椅子と鍵盤の距離は適切か?この距離が腕の位置を決めるが、腕の重みを自由に使うためにはすこし肘が胴体より前に出るくらいのほうが良い。胴体と完全に同じ距離で直角に下りていると、慣れていない場合は肘が固まりやすい。鍵盤にしがみつく癖がある場合、鍵盤から遠めに座ったほうが意識ができる。
  • 胴体と肩の分離はできているか?
  • 肘の脱力は完全にできているか?肘の脱力⇔前腕の支えは表裏一体である。重さが肘で止まらないで前腕のほうまで逃がしてあげる。
  • 肘が外側に出すぎていないか?基本的に逆ハの字を基調とした構えで、いつでも適度に脇をしめられる状態にあるか。
  • 腕が左右ではなく前後につかえているか?
  • 掌の支えが全くなくなってしまう瞬間があってはいけない。
  • 掌の強度は弱くもなく、強くもないか?状況に応じて強度を変更できるか?いつでも「クシャっ」とできる状態にあるか?
  • 打鍵の方向は前方向に転がるような形を基調とし、手前に爪弾くタッチがメインになっていないか?
  • 打鍵後に指先で止めてしまっていないか?前に転がれる余裕をもって打鍵しているか?
  • 常に「お願い、響いて!」のスタンスではなく、「もともと響いている」という意識を持ちながら点描画のように打鍵できているか?
  • 指の付け根から指を動かして打鍵し、指全体は完全に脱力されているか?指先の意識は捨てることができているか?
  • 指の関節は、タッチの方向に応じて自由に曲げ伸ばしができるか?どこかで止めてしまう関節は存在しないか?
  • 指関節の支えは、エネルギーを伝えるための分量だけにとどめているか?打鍵後に不必要に押し込んでいないか?
  • 親指を独立させず、腕と連動させて使えているか?(親指独特の使い方をマスターしてるか)
  • 小指が強靭に使えるタッチができているか?小指で枠を作っていないか?
  • 親指と小指は旋回のタッチを交えながら使えているか?
  • フォルテを出すときに指先で踏ん張っていないか?
  • 演奏しながら足の重みを感じているか?胴体の揺らぎを脚で吸収できる状態か?

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